意識は朦朧としていた。
そこから見える景色は緑色をしていた。

二人　男が見えた。

白衣と趣味の悪いスーツ。

名前を聞いて驚愕したはずなのに、それほどでもなかった。

また意識はまどろむ。

「経過は良好。」
「肉体にも異常見られません。」
「遺伝子との相性もバランスが取れています。」
「最も相性が良いのはやはり…。」

経過報告を聞きながらにやけが止まらなかった。
嗚呼もうすぐ完成する俺だけのお姫様。
あとは、そうあとは。


「精神状態は昏睡。
　仰せのままにあのキーワードでのみ反応するようにしてありますが…。」


そう、精神状態の安定。
今はまだ不安定の状態。
混乱状態のまま連れ去り、
そうして薬漬けにして、
遺伝子操作もやってのけた。

人であって人ならざるもの。


嗚呼　美しい


「剥離が嗅ぎ付ける前に実行する。」

「！　ですが、まだ、その…。」

白衣の男が口ごもる。
それはそうだ。
このままでは暴走は必須。
だが賭けてみたい。

お姫様になるか
化け物になるか


「構わない。何があっても俺が責任を取ろう。」


そう嘯いた。
彼女が動く瞬間だけが望みだった。










視界がはっきりしたのはどれくらいか経ってからだった。

白いワンピースの肌触りが気持ちよかったのは覚えている。
それでも意識だけは朦朧としていた。
趣味の悪いｽｰﾂを着た男たちが支えながら、ずりずりとあたしを持っていく。



止まったと思ったら、
緑の視界の原因は、
体がすっぽりと入ってしまう、
そんなカプセルの中に入った薬液の所為だと知った。

そんなカプセルの向こう側に見えた人影に二度、驚愕した。

「あ、れ」

「そう、お前のお兄さんだ。」

兄上の隣にいた、
一際趣味の悪いスーツの男が吐いた。

「な、にを、？けい。いち？」

昔想い合った人の名を呼ぶ。
なぜ貴方がここにいるの。
すべて貴方の所為なの。

疑問ばかりがめぐった頭に、彼は、
あたしと同様に意識が朦朧とする兄上を白衣の男に向かって突き飛ばした。

反射的に体が動いた気がしたが、
すぐに取り押さえられた。

そしてそのまま






兄は　刺された







血飛沫を上げながら倒れる兄上を見て、
あたしは　咆哮して。





皆灰に帰してしまった。





すべては一瞬だった。
血飛沫を見て、兄が死んだと思った。
思って、咆哮した。
ないていたとおもう。
酷く、酷くないたと思う。
そして、体から浮遊感が抜けた気がした。


兄上を刺した白衣の男は灰になった。
あたしの両側に居た趣味の悪いスーツの男も灰になった。

それだけで、後は兄上に駆け寄り、
そうしてあたしを見て怖気付いた者が走っていく音を聞きながら。

手当たり次第灰にして行った。


きっと咆哮していたと思う。
きっとないていたと思う。




肝心の慶一は逃がしてしまった。



跡で、自分のしたことと、その事実を、知った。




「申し訳ありません。」



そういって、剥離はすべてを説明してくれた。
もう彼が来たときには、あたしは兄上すら灰に帰していた。

彼の団体は、あたしを実験に使って。
人ならざるものにしてしてしまったこと。

力は灰に帰すことや、自然との対話が可能になったとか、そんなこと。
体には、自分でつけた傷と（所謂リストカット痕）腰から白い羽が生えていた。


化け物だ。





あたしは一人そう思った。









完成したと俺は思った。
姫君には迎えられなかったけど。
でも完成した、美しい。
あの美しさ、美しく儚く、そしてナニモノもすべて払いのける力。

嗚呼ほしい。
ほしい。


いつか必ず。



組織を形成。決心した。














完全に、あたしの日常は奪われてしまった。