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ぎんゆーしじんの しょーにんさん
たべものたくさん カートにいれて
はらっぱ のはら
おでかけ いこう

ひとつ ふたつの りんご と
みっつ よっつの ばなな
まだまだ はいるよ
いつーつ むっつの ぶどうと
ななーつ やっつ ここのつの れもん
さいごのさいごに
たいせつな とーおの にんじん

ぜんぶいれたと おもったら
おもくて ひっくりかえった
ぜーんぶ ひっくりかえっちゃって 
だめーに  なっちゃった







歩いていたら、子供達の無邪気な歌声が聞こえてきた。


久しぶりに、故郷に帰れる。
しかし、それはあまり好ましくないきっかけによるものだった。


先程聞こえた歌は、よく母が私に聞かせてくれた子守唄だった。
幼い私には大して意味を持たない、敢えて言うならば優しいぬくもりの象徴だ。
今も何と無く口ずさむことはあっても、意味は分からない。
吟遊詩人の商人、というのも違和感がある。

商人として生きてきた私の母は、アーチャーの父と結婚した。
そんな母を見て育ってきたからか、いつしか商人になることを夢見て生きてきた。
そして、とうとう昨年になって両親の了解を得、商人になれたのだ。
暫くは一人で商人の腕を磨き、一人前に成ることを目標に努力してきた。
幼い兄弟達を残していくのは、流石に心残りがあったけれど。

そんな両親から、急に手紙が届いた。


『大事な話がある。手紙では危険だ。この手紙を受け取ったら直ぐに戻れ。』


珍しく用件のみのものだった。
いつもなら、弟や妹達の話も添えてあるはずなのに。
それだけ急いでいたということだろうか。

―なんだろう。この胸騒ぎは。

今回、急いで帰ってきたのは不吉な手紙の所為だけではない。
私のこの胸騒ぎの所為だ。
虫の知らせ、という慣用句は知っていたが、まさかこれのことだろうか。
何も無いことを祈りつつ、私は故郷へと続く道を急いだ。





「どういうこと…?」

村へ近づくほど強くなる、むせ返るほどの匂い。
これは嗅いだ事がある。
かつて首都でテロが行われた時に、首都中に充満した匂いだ。
つまり。
家や、人が焼ける匂い。
無意識に足が速くなる。
否、既に走っていた。
そして、村の入り口についた私を迎えたのは、傷だらけの懐かしい顔と、見るも無残な家だった残骸だった。

「これは…。」

唖然と、その光景を見つめる。
一体、何があったというのか。

「セリアか。」

不意に声を掛けられた。

「イリィ…ッ!」

其処には、苦渋の表情を浮かべた青年が立っていた。

「運が悪かったな。もう一足早ければ…いや、逆に運が良かったのか。」

「待って、一体何があったの。」

うなだれて話すイリィに、私は請うように問うた。
どこか、憔悴しているようにも見える。

「…国の、害虫駆除。とでも言おうか。」

害虫駆除…?
この村が国にとっての害虫だとでもいうつもりか!

「そんな…あんなわけの分からない連中の所為で・・・!?」

怒りを露わにする私を見て、イリィが慌ててとめる。

「待て。これも理由がある。…まぁ、国の奴らの身勝手な行動という事実は変わらないがな。」

苦笑に見えたイリィの表情が、嘲笑に見えたのは気のせいだろうか。



イリィの後を着いていく。この先は、確か私の家だ。

「城焼きのクレイザは、知っているか。」

首都に居たなら知っているだろう。と、イリィは続けた。

「えぇ。あの悲惨なテロの…。
国に対して反抗的な行動をするのは別にいいけど、あのテロはやりすぎ。」

当時の惨劇を思い出して、歯を食いしばる。
女子供も、容赦なく殺し、家を焼いていた。
あの光景と今の村の惨劇と照らし合わせ、胸が痛む。

「そのクレイザを、お前の親父さんがかくまっていた。」

「え?!」

急に声を潜めたから聞こえにくかったが、確かに聞こえた。
あの…父さんが…?

「そんな…嘘…。」

確かに人は良かった。
村の人の人望も扱った。
だけど、そんな筋の通らないことをするような人ではない。
少なくとも、私はそう思っていた。

「俺も、最初はお前と同じことを思った。
お前の親父さんは、いくらお人よしでも筋の通らないことはしない。」

私は力なく頷いた。

「が…、この惨劇は、それが原因としか言えないだろう?」

そう言って、イリィが立ち止まったのは私の家。
…いや、家だった。と言うほうが正しいかもしれない。

「…そ…んな…?」

視点が落ちた。
膝には焦げた草の感触があった。

何も考えられない。
そんな、あの暖かい家はどこへ行ったの。

「セリア…。」

肩に手が置かれたのが分かった。
しかし、そんなことはどうでも良い。

―――どう、しよう。

そんな思いばかりが、頭の中をめぐっていた。



『ほら、そんなところに入っていたら危ないわ。』
『えー、だってぇ。これ、私が入るのに丁度いいんだもん。』
幼い私が入っていたのは一輪車のようなものだった。
『ダメよ。其処には車輪が付いているでしょう?
ちょっと動かしたら倒れて危ないわ。』
そういって、母は私を優しく抱いてくれた。
『子守唄に歌ってあげてるでしょう?
果物さんたちみたいになっちゃうわ』
『にんじんさんは野菜だよお』
そうね、と言って今度は椅子の上に座らせてくれた。
そして一輪車のほうを指差して言った。
『アレはお母さんが昔使っていたものよ。
カート、って言うんだけど。
またセリアが大きくなったらあげるわね。』
用途は分からないけれど、母の使っていたものがもらえるという事実に、無邪気に喜んでいたのを覚えている。


そのカートは、焼けた木材の中に、無残にも黒焦げて横たわっていた。











ふと、年配の商人にこんな話を聞いたことがある。


『吟遊詩人の商人の歌を知ってるか
あれはただの童謡じゃねぇ。
昔にあった、悲しい話を歌にしているんだ。』

初めて聞いた時には、その話は信じたくなかった。
母の温もりが否定されたと思ったからだ。

『あの歌は、まぬけな吟遊詩人が商人気取って馬鹿やった歌じゃねぇぞ。
子供を拾っていった吟遊詩人の歌だ。
だが、沢山の子供を育てるには金が要る。
だから吟遊詩人は商人になった。』

老いた商人は、キセルを蒸かしながら遠くを見つめた。

『果物は、拾った子供達。
当時そこら辺の村の治安が悪かったからな。
小さい村なんざ直ぐに燃やされちまう。
そん中で生きてる子供達を拾って言ったんだ。』

『最後に、野菜のにんじんがあるけど…?』

私の問いに、商人は苦笑しながら答えた。

『そのにんじんは、吟遊詩人の実の子供だ。』

『え?』

キセルの灰を入れ替えながら話を続けた。

『"大切な〟って言ってるだろ。
つまり自分にとって一番大切な子供ってことだ。』

『でも、最後にカートは…』

そこで気が付いて、私は口を噤んだ。

『気が付いたか。
そう、吟遊詩人は最後の最後に…







子供を全員、死なせちまった。』








黒焦げたカートの隣には、小さな手が黒焦げた木材の間から見えていた。


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自己
名:
蒼月 氷牙(アオツキ ヒョウガ)
ROでは朋藍(ホウラン)です
標準では氷牙使ってる
年:
35
性:
女性
誕:
1988/10/06
基本的にO型の大雑把。
社交的らしいけど、チキンなのでそんなこと無いです。(痛)ていうかネガティブの自暴自棄。ww

時々趣味による短文小説ならぬ駄文と詩が書かれるかと思いますのでお気をつけ下さい。


ねりま猫 40頭のSOS!

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