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「        。」



忘れたいのは、弱い私に逢いたくないから

忘れたくないのは、君が好きだったから


 日々が色あせて、セピア色。
あの時私が欲しかったのは、きっとあの想いを籠めた言葉だけ。






 起点、として人が欲しがったのは、あの曖昧な生温い空気だったのだろうか。
あの曖昧な生温さは、私に無意味な決断をさせる。
私には、其れが堪らなく、 。

「狩川さん、」

この時期、そう、あの曖昧な温さを決定付ける、この時期。
段々と初夏の雰囲気を漂わせるこの時期は、その私の曖昧な決断を打ち砕く。

「はい。」

そして、あと半年と一ヶ月もある時間の中で、私の心にシコリを残していく。








だから、春は嫌いなんだ。









 目の前で、中年の男性が、不自然な笑顔で押し殺した声を吐く。
「最近、教室で顔を見ないね。」
その笑みで、そんな声色で。
全てを知って、私は出来るだけ平然と返す。
「そうですね、お久しぶりです。先生。」
少しだけ目を逸らして、少しの間を作る。
「教室に、というよりは、学校に来ていないね。」
「ええ、そうですね。」
外では、下校するのであろう、他の生徒の喧騒が聞こえる。
あ、今運動部の走りこみの声が通った。

「狩川さん、」

目の前の担任が、居心地の悪そうに椅子に座り直す。

「何か悩みごとがあるなら、力になるよ。」

何度か聞いたことのある、言葉。
義務であるなら、仕方の無いことかもしれない。
「先生。」
少しでも間を作ろうとする担任に、少しでも間を作らせずに話を入れ込む。
「うん?」







「何も ありません。」




次に作られた間は、極自然的なものだった。

「何も、ありません。」
 だから、帰して下さい。
そのまま言葉を続けると、本当に極自然に、担任は黙り込んでしまった。







 『 そう、分かった。うん、帰りなさい。』
随分とうん。の覆い会話だったと、靴を履きながら思い返す。
硝子張りの昇降口を出て、履き潰したスニーカーを引きずりながら歩く。
日は沈みかけ、自転車置き場の木々が薄く紅色になっている。
「もう、結構経つのかな。」
斜め上を眺めながら、ふと頬が緩むのが自分でも分かった。
「懐かしいな。」
大した年月も経っていないのに、随分と歳をとってしまったような感覚に陥る。
ふと思い出して、急にあの白い部屋に行きたくなる。
足は自然と、校門とは正反対の方へと向かっていた。





 『また来たのか、本当に好きだな、お前は。」




「別に、好きに来て良いといったのは榛でしょ。」
制服のスカートを気にせず、椅子の上で足をふらつかせる。
「なんだ、また何かあったのか。」
その言葉に、一瞬の間を作ってしまった。
其れに気が付いて、ほんの少し気まずくなる。
「ああ、やっぱりな。」
「 ずるい。」
全く困ったものだ。
此処に来ると本当に調子が狂う。
「何だ、どうした。話くらいなら聞いてやるぞ、絣。」
先ほどまで淹れていた茶を、自分と私の目の前の机に置いてから、少しずつ距離を縮めてくる。
其れが疎ましくもあり、同時に少し嬉しく想ってしまう自分に戸惑う。
「 さっき、担任に呼ばれたの。」
ああ、と言って榛は置いたばかりの茶を啜る。
「学校、来てないね。だってさ。」
スカートのはためく音が、無機質に広い保健室に響く。
「そうだな、来てないな。」
まるで他人事のように、ぽつんと呟かれた。


―「そこが問題じゃないの。」


そう言おうとして、やめた。
ならば、何が問題だというのか。

「そういえば、
「絣」

珍しく、台詞を遮られた。

「何、榛。」

思いがけない榛の行動に、またほんの少しだけ、戸惑った。

「あのな、」

いつになく、真剣な榛の表情に、大いに戸惑う。
あれ、この話は、此処では禁忌だっただろうか。




「スカート、捲れてる。」




「え、?」
言われて、視線を落とす。
落とした視線が拾ったのは、だらしなく捲れたスカートと、だらしなく下ろされた自身の両足と、見覚えのある――――


 ―下着。



「ッ、ちょっと、榛!」
「いや、言わないわけにはいかないだろ。」
急いでスカートを直すが、頬の火照りは収まらない。
「其れは、そうだけど。」
「ん、で何だ。今言おうとしたこと。」
少し気が削げてしまったが、それでも少しは気分が晴れるだろうか。
「明日ね、弟が運動会なの。」
ほう、とまた茶を啜る。
「でね、リレーで選手になれたって大喜びでね。』





 気が付けば、傾いていた日はもうとっくに暮れていた。
「ああ。大変。」
帰らないと。
そう想って、やっと足を校門へと向ける。

それにしても、今日の夕日ははっとするほど綺麗だった。
やはり冬至に此処に来るのは間違いではなかった。


明日は晴れるかな。
そうだ、もし晴れたなら、明日は新しいスニーカーを出そう。



 「はあ、明日も学校か。」
またいだ自転車が、軋んだ。



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柏木 榛樹(かしわぎはるき)
狩川 絣 (かるがわかすり)

前のリンレン小説の改訂版。


弟の名前、どうしようかなぁー。
とりあえず、此処まで。

[2008.06.08 ah506 (c)蒼月]
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自己
名:
蒼月 氷牙(アオツキ ヒョウガ)
ROでは朋藍(ホウラン)です
標準では氷牙使ってる
年:
35
性:
女性
誕:
1988/10/06
基本的にO型の大雑把。
社交的らしいけど、チキンなのでそんなこと無いです。(痛)ていうかネガティブの自暴自棄。ww

時々趣味による短文小説ならぬ駄文と詩が書かれるかと思いますのでお気をつけ下さい。


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