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 チキンライスで薄い卵を包んで、その上に半熟のオムレツを乗せ上がったあたりで、彼女は浴室から出てきた。


「気持ち良かったー!」


先ほどの風貌とはうって変わり、今の彼女は白い肌に、黒い艶の有る長髪。
そして腰からは肌とは違う、純白の白い羽と、二つに別れた尾が見える。


「このワンピース、どうしたの?凄く着心地良い!
 にゃんにゃんにならなくても寒くないし!
 あ、オムライス!しかもスペシャルだー!」


そして人の姿に代わっても変わらないその性格で、彼女はまた言いたい事だけをスラスラと並べ立てていそいそとテーブルの椅子に座った。
その様子を確かめてから、―スプーンとナプキンを弄られないように―絶妙なタイミングで、特製のソースをかけたオムライスを彼女の目の前に置いた。


「んー!んー!
 Koo(くー)のオムライスー!!」


未だ興奮覚めやらぬ彼女を横目に、自分用のホットミルクを、ミルクパンからマグへ移した。
そのまま対面になるように、彼女の目の前に座った。



風呂上りの彼女はきまってだらしない。 髪の毛も濡れたままだし、 気に入ったといったワンピースもぐしゃぐしゃで、 それに食べ方も酷いもので、 半熟のオムレツとチキンライスを口に運ぶ工程で、なぜかきている服にも食わせる。 (本人にそのつもりは無いのだろうが) そんな彼女のために、いつもこの近くには清潔なタオルが用意されている。 そのタオルをもって、彼女の髪を包んで水分をあらかた取ってやる。 そうしたあとは、自然の風に充てておけば大抵は乾いてしまうので、 乾くまでは何もしない。 乾いた、見事なまでのキューティクルな黒髪を、 蒼いバレッタで留めるのも自分では出来ないのでやってやる。 「随分と遅いお帰りだな。」 もう月も隠れてしまうぞ。というと彼女はこともなげにこう言い放った。 「あ、あのね。  FORCEの優勝者のきゃすけっと?さんに逢ったのー。」 ――――場の空気が  一瞬で凍りついた。 言い換えると、自分が凍りつかせたのだが、 それ以上に、自身の銀髪が総毛だったのが分かった。   王主催の大会の、優勝者、だと…? 雰囲気が変わり、目の前の相手が怒っているのを見て取ったクイーンは、流石に怖気づいた。 「あ、あの、くー…ぅ?」 「何だ。」 間髪入れずに返事をしてやる。 その様を見て、思わず黙り込んでしまった彼女。 そのまま目の前のオムライスに逃げ場を求めるようにかぶりついた。 しかしそれは所詮食べ物。 逃げ場はあってないようなものだった。 「何をしたか、理解しているのか。」 自然と声のトーンが下がる。 その声を聞いたクイーンは、耳を垂れ下げている。 ふぅ、と溜息をついて、ホットミルクを一口含んだ。 そして、しばらくの沈黙の後。 「く、くーう、おかわり、いただけ…ます、か?」 ふにゅうぅ。 というつぶやきも込めながら小さく囁いた。 それに無言で皿を受け取り、 おかわり用の食材の前に立った。 あからさまの重い雰囲気。 「クイーン。」 彼女の背中で新しいオムライスを作りながら名を呼ぶ。 顔を向ければ、耳と、二つに分かれた尾があからさまに 反省 してます とでも言いたげに垂れている。 しかし、それを許すわけには行かない。 「我々は今逃げおおせている立場だ。 それをサポートしてくれるお前の存在は凄く大きい。」 今のこの家を探してくれたのも彼女だ。 人里から少し離れた、林にある小さな小屋。 されど城から遠すぎるわけでもなく、情報は絶妙なラインで届いてくる。 また、むこうには個人情報を残してこなかったし、 記録も全て削除してきた。 そして此方からも自分の個人情報を漏らすようなことはしていない。 前のように害のない人間を巻き込むこともせず、 また暗号も合言葉も要らない。 故に、とりあえず安心した生活を送ることが出来ている。 今の言葉で少し安心したのか、耳だけがもたげて来た。 しかし、許したわけでは、ない。 「だからこそ、隠密を得意とする我々が、だ。 そんな目立つ様な行動をとってどうする。」 語気を強くして言い放てば、彼女の耳はまた頭にくっついてしまった。 「お前の特徴は闇には紛れ易いがそれでも人目に触れれば目立つだろう。 しかも相手が、あの王が開催した大会の優勝者、だと? 無用心にも程があるだろうが。」 少しずつ、それでいてまた反省しているであろう気を背中に感じながら、チキンライスを作っていく。 先に細かく切った鶏肉を炒めて、それを皿にだす。 次に冷えた飯を同じフライパンに入れて、 少し火が通ったら油を追加して、 硬い野菜ー例えばにんじんやブロッコリーの芯ーを入れて、 野菜にも火が通ったら、 先ほどあげた鶏肉に下味を軽くつけてからフライパンに戻す。 そうしてトマトソースと胡椒、そして隠し味にしょうゆを入れる。 その香りに少し顔が左に向き気味なのもすべて把握済みだ。 「まったく、現役だったら首をはねられるところだぞ。 Qie(クイエ)。」 当時の呼び名に、彼女は勢い良く振り向いた。(気配がした) きっと彼女の色の違う二つの眼は、 殺さんばかりの勢いで背中を見つめているであろう。 先ほどの自分のように。 チキンライスを薄い卵で包んで、 さらにその上に半熟のオムレツをのせる。 そしてソースとトマト、ミルクを独特の調合で合わせたソースをたらしてやる。 違う深い器には、これまたトマトをふんだんに使ったミネストローネを注ぐ。 なおもにらみつけてくる彼女に、俺はさらに言葉を続けた。 「冷静さを欠くと手に負えないことになり兼ねんぞ。」 「Koo、いえ、Kooreize(くれいざ)。」 彼女もまた、現役の頃の自分の名前を呼んだ。 その目は、懐かしい昔と同じ目をしていた。 おかわりのオムライスとミネストローネを置いて、また目の前に腰を下ろす。 「何だ。」 「慎重に動かなければ成らないのは重々承知。  私をここまで育ててくれたのにも、言葉にしきれないくらい感謝している。  されど、今回ばかりは大胆でも関るべきだと判断した。」 現王が主催の、この大会。 それにそんな価値があるのか。 「あの賞品の盾、FORCEとは違う気を感じた。  優勝者や参加者にも、感じたことの無い気を持っているものもいる。」 「…死神、か?」 クイーンは頭横にふった。 「分からない。けれど、これは興味が湧かない?」 月の様な眼が、自分を射抜く。 それに、と彼女は続けた。 「これ、出してきちゃったしさ。」 そういってテーブルに出された、二つの書類。 「これ、は…!!」 『3rd FORCE エントリー名:静香兎毒』 『3rd FORCE エントリー名:崩藍』 それは、FORCE参加者のエントリーシートだった。 しかも、その名前は…。 「懐かしいでしょう?  王家には残っていない名前。だけど確かに存在する、名前。」 私は上の名前。 故郷の言葉を捩ったの。 そんな彼女の言葉はどうでも良かった。 「お前!これがどういうことか分かっているのか?!  もしかしたら、命に関る可能性だって」 「其れくらいしてもいいと思ったんだもんー。」 軽々しく、こいつは重いことを言う。 「大丈夫だよ、現王は私達のこと、分からないし。  問題は側近とかだけど、なんとかなるよー。」 参加、する。 その事実で様々な可能性が上がってくる。 それだけで頭が一杯になったが、ふっと、考えをひっくりかえしてみた。 「あの子が、どんな王をしているのだろうな。」 銀髪の、小さな王様。 それでも国を治める程のカリスマ。 「興味、でた?」 覚めやらぬうちに、とオムライスに早速かぶりついたクイーンがにこやかに聞いてきた。 「そうだな」 既にさめてしまったミルクを口に運びながら、策をめぐらす。 懐かしい。 もう2年、か。 「参加、してやろうじゃないか。」 日常のスパイス、とは。 つまりこういうことなのだな。 クレイザは外の沈みかけている月を見ながら、妖艶の笑みを浮かべた。 End?
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自己
名:
蒼月 氷牙(アオツキ ヒョウガ)
ROでは朋藍(ホウラン)です
標準では氷牙使ってる
年:
35
性:
女性
誕:
1988/10/06
基本的にO型の大雑把。
社交的らしいけど、チキンなのでそんなこと無いです。(痛)ていうかネガティブの自暴自棄。ww

時々趣味による短文小説ならぬ駄文と詩が書かれるかと思いますのでお気をつけ下さい。


ねりま猫 40頭のSOS!

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